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幼き少女の森の思い出

少女は歩く
月明かりに照らされた
野ばらの森を
背の高い大きなケヤキを目印にして

刻み付けた思い出を胸に
少女は歩く

大樹の下で
あの人が彫った名前
私が彫った名前
子供心にあの人の名前を彫った私
あの人は私の名前を彫っていた

幼い私たちの契り
顔と顔を近づけて
初めての恋を捧げた
砂糖菓子が溶けるように
ラズベリーとチョコが交わるように

お日様が高く昇った
午後3時のテーィタイム
側に置かれた砂時計
さらさら さらさら
時計の砂はゆっくり落ちた

少女は想う
となりにいないあの人を
絡めた指が懐かしい
背の高いあの人を

大樹を傷つけた思い出を
指でなぞる
私の指はまだ
あの人の名前を覚えてる

早く大人になりたかった
そんな私の頭を撫でて
その手で温かな優しさをくれた
優しいあの人

当たり前の日々を重ねるごとに
あの人の頬は赤みを増していた
この手から伝わる熱
絡める指が切なくて
交える言葉はつたなくて
囁く愛は途絶えてしまった

青い空が広がる夏
あなたは白い鳥になった

少女は歩く
月明かりに照らされた
野ばらの森を
背の高い大きなケヤキを背中にして

隣にいたはずのあなたと
手を繋ぐように
一人で歩く
あなたの手の温もりが
まだ残ってる
あなたはまだそこで
私に微笑みかけている

少女は微笑む
誰もいない夜の森に向かって
あなたは微笑んでくれたのに
私はあなたに微笑むことができない
夜風が私に教えてくれた

少女は思う
隣には誰もいないのだ
契りを交わしたあなたは
どこにもいないのだ

私は前を向く
月夜が照らし出す道を
真っ直ぐ見る
あなたはここにいない
だから、凛として歩く
一人で歩く
あの人との思い出を
私だけの胸に刻んで
凛として生きる

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